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衣替えで服を選ぶとき、見た目だけでなく、動きやすさにも目を向けてみませんか。ココ・シャネルの仕事から、使う人の暮らしを出発点にする考え方をたどります。
今の暮らしに、その服は合っているか
気に入って買ったのに、いつの間にか手が伸びなくなった服がある。似合わなくなったのではなく、歩く距離や過ごし方が変わり、今の暮らしに合わなくなったのかもしれません。
衣替えは、厚い服と薄い服を入れ替えるだけでなく、自分が何を心地よいと感じるかを確かめる機会にもなります。仕事で扱う物や仕組みにも、同じ問いを向けられそうです。作る側の都合より、使う人の1日から考えてみるのです。
動けることに、価値を見いだす
シャネルは帽子の店から仕事を広げ、1913年にはジャージー素材のスポーツウェアを売り始めました。公式年譜は、それまで主に男性用の下着に使われていた素材を取り入れたと紹介しています。シャネル公式・1910年代の年譜
服のために動きを小さくするのではなく、動く身体に服を近づける。その方向は、飾りの多さとは別の豊かさを示します。服飾の資料でも、彼女が過剰な装飾を削ぎ落とし、活動的な女性の装いを進めたことが説明されています。京都服飾文化研究財団・1920年代の服飾資料
贅沢は快適でなくてはならない。そうでなければ贅沢ではない。
――シャネルの言葉として伝えられる英語表現から、WA-IKU訳。Chubb・シャネルの言葉の紹介(二次資料)
この名言の発言原記録は確認できていません。本人が語った日時や場面を作らず、伝えられる言葉として、確認できる服づくりの歩みと重ねて読みます。
新しさを、使う人の側から見る
布とはさみ、縫うための針と糸。同じ道具でも、どんな動きを助けたいのかによって、形にするものは変わります。柔らかく動く布を、どこで切り、どこでつなぐか。使う場面を思い浮かべることで、材料の生かし方も変わります。
月曜の仕事へ引き寄せると、新しい商品やサービスを考えるとき、機能を足す前に、使う人がどこで窮屈に感じているかを見つけることが出発点になります。入力が多すぎる手続き、持ち運びにくい道具、説明がないと使えない仕組み。慣れてしまった不便にも、見直す余地があります。
シャネルの人生全体を、この服づくりの姿勢だけで評価しきることはできません。それでも、使う人の動きから価値を問い直すという仕事の視点は持ち帰れます。衣替えの季節に、今の相手の暮らしへ合う形を探してみたいと思います。
今を生きる私たちへ
1つめ。使われない理由を尋ねる
勧めたい点を話す前に、使いにくかった場面を聞く。相手の暮らしの中で起きていることを確かめます。
たとえば、職場で配った説明書が読まれないなら、使う人がどのページで止まったかを一緒に見てみます。最初に必要な手順を表へ出すと、厚い資料を増やすより早く作業に入れるかもしれません。
2つめ。足す前に減らせる手間を見る
項目や手順を増やす前に、省ける重複を探す。便利さが負担を増やしていないかも見ます。
たとえば、家族の予定表に細かな色分けを増やすほど、誰も記入しなくなったとします。時刻と用件だけに戻してみると、出かける前に確かめる習慣が続くかどうかを見られます。
3つめ。今の身体と予定に合わせる
以前に似合ったかだけでなく、今の動きに合うかを基準に選ぶ。暮らしの変化を選び直す理由にします。
たとえば、毎日の通勤で歩く距離が増えたのに、以前と同じ靴を選び続けているとします。玄関で歩きやすい1足に替えてみると、見た目だけでは気づかなかった今の自分の条件が分かります。
4つめ。小さく試して反応を聞く
いきなり全部を変えず、手間の少ない形で試す。使った人の言葉から次の調整を考えます。
たとえば、会合の申込用紙を変えるなら、まず身近な1人に記入してもらいます。書く手が止まった欄を直してから配れば、使いにくさを大勢に広げずに済みます。
おわりに
季節が変われば、身体が求める服も変わります。仕事でも、以前の正解が今の相手に合うとは限りません。見慣れた形をいったん眺め直し、使う人の動きへ近づける。その小さな切り替えから、役に立つ工夫が生まれるのだと思います。
次回は、長く続けた役割を終えたあとにも持ち運べる、自分の軸を考えます。
あわせてどうぞ:昨日の今週のテーマ「手を合わせたあと、何を手渡すか」――5人の賢者から学ぶ。翌日の記事は小平奈緒――肩書きが変わっても、自分は続いていく。

この人物を、もっと知りたい方へ
シャネル 人生を語る(ポール・モラン著/山田登世子訳、中央公論新社) シャネル本人の語りを、友人の作家が書き留めた一冊。装いと生き方がどう結びついていたかをたどれます。
ココ・シャネルのことばと人生(高野てるみ著、ポプラ社) シャネルの言葉を手がかりに、その歩みをたどる一冊です。
ココ・シャネル 女性を自由にしたファッションデザイナー(金治直美著、Gakken) 子どもから大人まで読める伝記。仕事と服の変化を、順を追って知る入口に。
人物プロフィール
ココ・シャネル(1883–1971)
フランスの服飾デザイナー・事業家。活動しやすい装いを広め、女性の服のあり方に影響を与えた。ひとことで:暮らしと身体の動きから服を考えた人。
ゆかりの地
シャネルが長く暮らしたホテルのある、パリ中心部の一角。










