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「大切なのは分かっている。でも、できていない」
このセリフを、心の中で何度つぶやいてきたでしょうか。
運動したほうがいいのは分かっている。あの習慣はやめたほうがいいと分かっている。挑戦すべきだと分かっている。周りに感謝すべきだと分かっている。
――分かっている。でも、動けない。
情報があふれる時代です。私たちは、驚くほどたくさんのことを「知って」います。それなのに、なぜ人生はなかなか変わらないのでしょうか。
この問いに、時代も国も職業もまったく違う5人が、それぞれ別の道を歩みながら、同じ答えを出していました。マネジメントの父、古代中国の兵法家、シスターの教育者、ものづくりの巨人、そして江戸時代の商人たち――。
今日は、その「たった一つの答え」を解き明かしていきます。
証言① ドラッカー ―― 「捨てる」という行動
「マネジメントの父」ドラッカーが説いたのは、捨てるという行動でした。
新しいことを始める前に、まず「もう成果を生まないもの」を手放す。頭で「変えたほうがいい」と思っているだけでは、何も変わらない。実際に古いものを捨てて、はじめて新しいものが入る場所ができる。「もし今なかったら、改めて始めるか?」――その問いを、行動に移せるかどうかでした。
証言② 孫子 ―― 「準備する」という行動
兵法家・孫子が説いたのは、準備するという行動でした。
「勝つ軍は、勝てる状態を作ってから戦う」。勝負は、始まる前の準備でほぼ決まっている。本番でがんばろうと思っているだけでは遅い。実際に手を動かし、備えた者だけが、落ち着いて本番に臨める。知識ではなく、準備という行動が勝敗を分けました。
▶ 孫子の回を読む
証言③ 渡辺和子 ―― 「咲く」という行動
シスターであり教育者だった渡辺和子さんが説いたのは、咲くという行動でした。
「置かれた場所で咲きなさい」。ただし「咲く」とは、我慢して耐えることではありません。その場所で自分にできることを見つけ、周りの人のために動くこと。環境を嘆いて立ち止まるのではなく、今いる場所で手を動かす。それが「咲く」という行動でした。
証言④ 本田宗一郎 ―― 「挑戦する」という行動
HONDAを一代で築いた本田宗一郎が説いたのは、挑戦するという行動でした。
「チャレンジして失敗を恐れるよりも、何もしないことを恐れろ」。失敗を恐れて動かなければ、成長も成功も生まれない。頭で考えているだけの「安全」は、実は何も生まない停滞にすぎない。倒れても立ち上がり、また挑戦する。その行動の連続が、世界的企業を生みました。
証言⑤ 近江商人 ―― 「還元する」という行動
江戸時代の近江商人が説いたのは、還元するという行動でした。
「三方よし」――自分と相手だけでなく、地域社会のためを考える。そして彼らは、それを言葉で終わらせませんでした。儲けさせてもらった土地に、実際に橋を架け、井戸を掘った。「地域のため」を、行動で示したのです。
5人に共通する、たった一つの答え
分野も、時代も、国も違う5人。
けれど、彼らの教えを並べたとき、くっきりと一本の線が浮かび上がります。
「知っているだけでは、足りない。動いて初めて、学びは力になる」
ドラッカーは、捨てる行動を。 孫子は、準備する行動を。 渡辺和子は、咲く行動を。 本田は、挑戦する行動を。 近江商人は、還元する行動を。
5人とも、「考えること」で満足しませんでした。それを、実際の「行動」に落とし込んだ。だからこそ、彼らの教えは、時代を超えて生き続けているのです。
今を生きる私たちへ
とはいえ、「動け」と言われて、すぐに動けるなら苦労はありません。大切なのは、ハードルを下げることです。
「たくさん学ぶ」より、「一つやる」。 十のことを知って何もしないより、一つを知って実際にやるほうが、人生を動かします。学びを増やすのを、いったんやめてみる。
「いつか」ではなく「今週」やる。 「そのうちやろう」は、たいてい永遠に来ません。日付を決めた瞬間、知識は行動に変わります。
小さく、具体的に決める。 「健康に気をつける」ではなく「明日、一駅歩く」。具体的であればあるほど、体は動きやすくなります。
そして、少し厳しい真実を一つ。
「分かっているのに、できない」は、実は「まだ本当には分かっていない」のかもしれません。
これは、中国の思想家・王陽明が説いた「知行合一(ちこうごういつ)」の考え方です。知ることと行うことは、本来一つ。本当に「知っている」なら、それは必ず行動に表れる、と。
厳しい言葉ですが、裏を返せば、希望でもあります。一つ行動すれば、それはもう「本当に分かった」ということ。難しく考えず、まず一つ、動いてみればいいのです。
おわりに
先週も、5人の賢者が知恵を授けてくれました。渋沢栄一、吉田松陰、西郷隆盛、稲盛和夫、范仲淹。彼らが教えてくれたのは、「正しく生きる心」でした。
そして今週の5人が教えてくれたのは、「実際に動く力」です。
この二つは、車の両輪です。
どんなに立派な考えを持っていても、行動しなければ、何も変わらない。逆に、正しい心のない行動は、ただの暴走になってしまう。
正しい心を持って、実際に動く。
この二つが揃ったとき、人は初めて、本物の力を発揮します。
今週、あなたの心に最も響いた賢者は、誰だったでしょうか。
その一人の教えを、たった一つでいい、来週の具体的な場面で、実際にやってみてください。
知ることと、行うこと。その二つが一つになったとき、あなたの学びは、本物になります。
(同じ5人を、今度は「持たざる者だった」という角度から並べたまとめ記事歴史に名を刻んだ5人は、全員「持たざる者」だったも、あわせてどうぞ。)

今回の5賢者ガイド ―― もっと深く出会うための5冊
今日登場した5人。「最も響いた一人」から、その言葉の源にそっと触れてみてください。
ピーター・ドラッカー(マネジメントの父) 『マネジメント[エッセンシャル版] 基本と原則』(ダイヤモンド社)。「捨てる勇気」の本質が学べる、経営の古典。
孫子(古代中国の兵法家) 『孫子・三十六計 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』(角川ソフィア文庫)。「準備がすべてを決める」戦略の原点を、現代語訳で気軽に読める入門書。
渡辺和子(教育者・シスター) 『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎文庫)。200万部超。今いる場所を輝かせる言葉が詰まった一冊。
本田宗一郎(HONDA創業者) 『やりたいことをやれ』(PHP研究所)。失敗を恐れず挑戦し続けた人生の熱量が、本人の言葉でまっすぐ伝わる本。
近江商人(江戸の商人道) 『近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本』(講談社現代新書)。「地域と共に栄える」三方よしの知恵が、今も生きていることを教えてくれる一冊。
