和育道〜wa-iku〜
和の章

今週のテーマ「全部を変えなくても、暮らしは切り替えられる」――5人の賢者から学ぶ

服、役割、時間、一杯のお茶、身近な人との関係。今週たどった5人の人生を、暮らしの切り替え方として振り返ります。何もかも新しくするのではなく、残したいものを確かめて1つ試す。週末の家庭や職場で無理なく始められる4つの具体例をまとめます。

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今週の5人ゆかりの品。布とはさみ(ココ・シャネル)、スケート靴(小平奈緒)、ノートと鉛筆(スティーブ・ジョブズ)、茶碗と湯の道具(岡倉天心)、織布と器(白洲正子)をイメージして描いています。
今週の5人ゆかりの品。布とはさみ(ココ・シャネル)、スケート靴(小平奈緒)、ノートと鉛筆(スティーブ・ジョブズ)、茶碗と湯の道具(岡倉天心)、織布と器(白洲正子)をイメージして描いています。

今週は「切り替える」を芯に、5人の人生をたどりました。服や役割を替えるとき、残しておきたいものも一緒に考えてみます。

替える前に、今の自分を確かめる

季節の変わり目には、服を出し入れする手が少し止まります。まだ着るのか、しまうのか。以前は似合った服でも、今の暮らしには合わないことがあります。逆に、長く使った物ほど手放したくない理由がはっきりしてくることもあるでしょう。

仕事や人との付き合い方も、古いから捨て、新しいから取り入れればよいとは限りません。今の相手、自分の体力、使える時間に合っているか。その確かめ方を、今週の5人はそれぞれ違う方向から考えさせてくれました。

シャネルと小平奈緒――形が変わっても、軸は持てる

月曜のシャネルから持ち帰ったのは、使う人の動きから仕事を見直す視点です。服の立派さだけでなく、着た人がどう過ごせるかを考える。その問いは、職場の説明や手続きにも向けられます。相手が使いやすくなるなら、慣れた形を少し変えてみる価値があります。

火曜の小平奈緒から考えたのは、役割が変わっても好奇心は持ち運べるということ。競技で育てた観察する力、試す姿勢は、別の場でも学びの入口になります。得意だった自分を捨てなくても、知らないことを教わる自分でいられるのです。

2人を並べると、形を守ることと、大事なものを守ることは同じではないと気づきます。残したい軸があるからこそ、やり方を選び直せるのかもしれません。

ジョブズ――失った役割だけで、自分を測らない

水曜は、ジョブズが語った再出発を読みました。会社を離れた経験を、最初から明るく受け止められたわけではない。後から振り返る中で、仕事への愛情が残っていたことに意味を見いだしています。

その歩みを読むと、切り替えに時間がかかることも認めてよいと思えます。すぐに次の目標を決めなくても、今も気になることを1つ書き留める。肩書きを失った自分への採点をいったん置いて、続けたい行為を探す。暮らしを守れる小さな試し方なら、再出発の入口は身近にもあります。

天心と白洲正子――見慣れたものを受け取り直す

木曜の岡倉天心は、『茶の本』で、お茶をいれる方法を唯一の正解に閉じ込めませんでした。

完璧なお茶をいれる、唯一の決まった方法はない。

――『茶の本』第2章、一文前半の抜粋、WA-IKU訳。岡倉天心 The Book of Tea 原文

茶葉や水、熱に応じるように、目の前のものを見て決める。日常の美は、何かを買い足すことより、すでにある器や時間へ注意を向けるところからも始まります。

金曜の白洲正子からは、好きな物を自分で使い、その向こうにいる人と関わる視点を受け取りました。評判だけで判断せず、手触りや使い心地を確かめる。その関心を言葉にして作り手や店の人へ渡せば、いつもの町に会話が生まれます。

布とはさみ、スケート靴、ノートと鉛筆、茶碗と湯を扱う道具、織布と器。今週を象徴する物を並べると、道具を増やすより、その前にいる自分の見方を変える余地が見えてきます。

今を生きる私たちへ

1つめ。今の暮らしに合わないことを1つ見つける

全部を点検しようとすると、切り替え自体が負担になります。毎回手が止まる、使うたびに困るという小さな箇所を入口にしてみます。

たとえば、出かけるたびに玄関で鍵を探しているなら、家族と置き場所を1つ決めます。朝の出入りで使ってみると、置きやすい高さや手を伸ばす方向まで確かめられます。

2つめ。残したい動詞を書いてみる

終える役割と、これからも続けたい行為を分けてみる。肩書きの下にある自分の関心が、次の関わり方を見つける手がかりになります。

たとえば、子どものチームの当番が終わったら、楽しかったことを「励ます」「準備する」と書いてみます。別の集まりに誘われたとき、役職名よりも自分にできる関わり方を伝えやすくなります。

3つめ。1回だけ試してから決める

合うかどうかは、考えるだけでは分からないこともあります。戻せる範囲で試し、使った人や自分の感覚を確かめてから続けるかを選びます。

たとえば、家の食卓を少し落ち着かせたいなら、1回の食事だけ読みかけの書類を別の場所へ移します。食事の支度や片付けがしやすいかを見てから、新しい収納が要るかを考えられます。

4つめ。物を入口に、身近な人と話す

使い慣れた物にも、持ち主だけが知る理由があります。急いで評価せず、その人がどう使っているかを聞いてみると、今まで知らなかった面が見えてきます。

たとえば、会合の片付けで長く使われた道具を見つけたら、捨てる前に詳しい人へ使い方を聞きます。修理しながら使ってきた話が出れば、次に扱う人へ渡す情報も増えます。

おわりに

切り替えることを、大きく生まれ変わることだと思うと、なかなか手をつけられません。今週の5人から持ち帰りたいのは、今の暮らしに合うかを確かめ、残したいものを選び、1つ試すという進み方です。うまく合わなければ、また選び直して構いません。

衣替えの途中で、よく着た1枚を広げてみる。その服で出かけたい場所が浮かんだら、しまう手を少し止めておく。今の自分に合う選択は、そんな小さな確かめ方から始められます。

次回も、日々の選択を考えるために、別の人生の言葉を訪ねます。

余談:今週の花「金木犀」

今週の花、金木犀。
今週の花、金木犀。

冒頭には今週の5人ゆかりの品を、そしてこの締めくくりには、季節の花を一輪添えました。今週の花は金木犀(きんもくせい)です。

金木犀は、9月の終わりから10月にかけて、小さな橙色の花をたくさんつけます。花そのものは目立たなくても、甘い香りが先に届き、どこかで咲いたことに気づかされる花です。

名前の「木犀」は、木の幹の肌が動物のサイの皮に似ていることから来ているといわれます。その仲間のうち、金色の花をつけるので金木犀。中国から江戸時代に伝わったとされ、日本で見かける木の多くは、挿し木で増やされてきたといわれています。

10月のはじめは、衣替えの季節でもあります。服を入れ替える手を止めて、ふと窓の外の香りに気づく。全部を変えなくても、季節はこうして小さな合図で、暮らしを切り替えてくれます。


今週のテーマを、もっと知りたい方へ

シャネル 人生を語る(ポール・モラン著/山田登世子訳、中央公論新社) 本人の語りを通して、装いと人生の結びつきをたどる入口です。

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熟達論 人はいつまでも学び、成長できる(為末大著、新潮社) 小平の評伝ではなく、学び続けるという今週の視点を広げる関連書です。

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新訳 茶の本 ビギナーズ 日本の思想(岡倉天心著/大久保喬樹訳、KADOKAWA) はじめて『茶の本』を読む入口に。

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今週の5人

ココ・シャネル(1883–1971):服飾デザイナー・事業家。活動的な装いへ仕事を広げた。

小平奈緒(1986–):元スピードスケート選手。競技後も学びと経験を伝える。

スティーブ・ジョブズ(1955–2011):起業家。再出発の経験を卒業式で語った。

岡倉天心(1863–1913):美術思想家。英語の著作で茶と美を伝えた。

白洲正子(1910–1998):随筆家。工芸や土地を自分の目で見つめた。

ひとことで:変えるものと大切にするものを、違う場所で問い直した5人。

働き盛りの会社員 × バスケコーチ × 地域活動家

~すべては、愛から~

和を敬い × 人を育て × 道を歩む。

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