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本日は、今週ご紹介した5人を、少し引いたところから眺めなおす回です。
鉄道、サッカー、農業、真珠、堤防。やっていることは、ばらばらです。
ところが書き終えて並べてみたら、共通点が二つ、はっきりと出てきました。
さて、何だったのでしょうか。
月曜|小林一三――無職から始めた
30代半ばで無職。引き受けたのは、投資家が誰も乗ってこない、田んぼの中の鉄道計画でした。
彼は、問題の立て方のほうを変えます。乗る客がいないなら、乗る人が住む町を先に作ればいい。
金がないから何もできないという人間は、金があっても何も出来ない人間である
住宅の月賦販売、宝塚歌劇、世界初のターミナル百貨店。始めたときの肩書きは、無職でした。詳しくは小林一三の回で。
火曜|川淵三郎――一社員から始めた
プロリーグ設立にあたって、クラブ名から企業名を外させました。お金は出せ、名前は出すな。猛烈な反発が起きます。
それでも譲らなかった理由は、はっきりしています。企業名なら会社のもの。地名なら町のもの。会社は撤退できますが、町は撤退できません。
百年構想が語ったのは、強化計画ではなく、芝生と町の交流でした。30年後、地方都市にプロクラブがある風景ができています。詳しくは川淵三郎の回で。
水曜|宮沢賢治――無名の教師から始めた
30歳で教師を辞め、花巻郊外で独居自炊。農民に肥料設計を無料で教え、畑を耕し、そしてレコードを聴かせました。
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
活動は2年で病に倒れて終わり、生前に売れた本はほぼゼロ。37歳で亡くなっています。いま花巻は「賢治の町」ですが、その風景を本人は見ていません。詳しくは宮沢賢治の回で。
木曜|御木本幸吉――うどん屋の息子から始めた
13歳から行商で家を支えました。真珠を人の手で作る——当時は、正気の沙汰ではない話です。
赤潮で貝がほぼ全滅。借金は膨らみ、笑われた。それでも壊滅した貝を開け続け、17年目に真円真珠へ到達します。
世界中の女性の首を真珠で飾りたい
英虞湾は、真珠の海になりました。詳しくは御木本幸吉の回で。
金曜|濱口梧陵――地方の商人から始めた
津波の夜、その年に収穫した稲むらに火を放ち、村人を高台へ導きました。有名なのは、ここまでです。
本当の仕事は翌日からでした。私財で4年かけて堤防を築き、延べ5万7千人を雇用した。村人に仕事を作り、村から人が出ていくのを止めたのです。
92年後、その堤防が村を守ります。本人は、とうに亡くなっています。詳しくは濱口梧陵の回で。
5人を貫く一本の線
並べて、はっきりしました。
1つめ。全員、始めた時点では無名だったこと。
無職、一社員、無名の教師、うどん屋の息子、地方の商人。
2つめ。全員、最初は笑われていること。
私たちは、逆に考えがちです。
町を変えるには、力のある人でなければならない。資金が要る。肩書きが要る。だから自分には無理だ、と。
しかし今週の5人は、誰一人としてそこから始めていません。
彼らが持っていたのは、権限でも資金でもなく、問題の立て方でした。
小林一三は「客がいない」を「住む理由がない」に変えた。
川淵三郎は「クラブが弱い」ではなく「クラブは誰のものか」を問うた。
賢治は「農民が貧しい」を「自分が離れた場所にいる」に変えた。
幸吉は「真珠は偶然だ」を「偶然を待たなくていいはずだ」に変えた。
梧陵は「村を救った」で止めず、「村から人が出ていく」を問題にした。
風景を変えるのは力ではなく、問いの立て方だ——今週の答えは、ここだと思います。
そしてもうひとつ。
賢治と梧陵は、自分の始めたことの結末を見ていません。
見届けられるかどうかは、始めるかどうかとは別の話だ、ということです。
今週の問い
今週の問いを、三つ置いておきます。
①あなたがいま「自分には無理だ」と思っている理由は、力や肩書きの話でしょうか。
②その問題を、別の言葉で立て直すとしたら、どう言い換えられるでしょうか。
③自分の代で結果が出なくてもいい、と思える仕事は、何かありますか。

今週の5冊
今週の記事でご紹介した本を、まとめて置いておきます。
『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(講談社・小林一三) 無職から始めた人の回想。「下足番」の言葉が、どんな日々から出たのかが辿れます。
『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル・宇都宮徹壱) 川淵が作った枠組みを、受け取った側から見た記録です。
『新編 銀河鉄道の夜』(新潮文庫・宮沢賢治) 「ほんとうのさいわいは一体何だろう」。羅須地人協会の思想が、物語の側から読めます。
『御木本幸吉』(吉川弘文館・大林日出雄) うどん屋の長男が真珠王になるまでの17年を、資料に沿って追える評伝。
『津波とたたかった人 浜口梧陵伝』(新日本出版社・戸石四郎) 稲むらの火のあと、堤防事業と明治期の公職まで。「翌日からの仕事」が中心です。
