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試合に出る前から、閉ざされた入口がある。ジャッキー・ロビンソンの歩みから、競技の中で人を敬うとはどういうことかを考えます。
グラウンドに立つ、その手前にあるもの
練習して力をつければ、試合に出る機会に近づける。そう考えられる環境そのものが、いつでも誰にでも開かれていたわけではありません。
敬老の日から彼岸へ続く週に、受け継いできたものを思うなら、道具や技術とともに、参加できる機会にも目を向けたいと思います。先に生きた人が押しひらいた入口は、今では見えにくくなっていることがあります。
人種の壁の前で、競技を続ける
1947年4月15日、ジャッキー・ロビンソンはメジャーリーグの試合に出場しました。近代のメジャーリーグで、黒人選手に対する人種の壁を破る節目となった出来事です。米国国立公園局・ロビンソンの生涯
それを、誰にでもできる努力の物語として片づけることはできません。能力とは別の理由で機会が閉ざされる社会に、彼は立っていたからです。敬意とは、その背景を飛ばして結果だけを褒めることでもないのでしょう。
「人生の重みは、ほかの人の人生に与える影響にある。」
――公式サイト掲載の言葉より、WA-IKU訳。ロビンソン公式サイト・Legacy
この言葉は、1947年の試合直前の発言として残っているものではありません。彼の歩みを受け継ぐ公式サイトが掲げる言葉として、人生全体に重ねて読みます。
次の人が入れる場所を残す
グラブとボールがあっても、誰もが安心して競技を始められるとは限りません。初めて来た人への説明、失敗した人への声、仲間として迎える態度。設備には表れない条件が、その場に戻ってこられるかどうかを左右します。
ロビンソンの死後、妻が設立した財団は、若者の進学や成長を支える活動を続けてきました。ジャッキー・ロビンソン財団・About 競技場の外へも、機会をひらく仕事は受け継がれています。
現代の私たちに引き寄せるなら、自分が活躍できるかと同時に、誰が入口で立ち止まっているかを見てみることかもしれません。技量の差を認めることと、人としての尊厳を分け隔てることは別です。先人への感謝を、次に来る人への扱いに残していきたいと思います。
今を生きる私たちへ
1つめ。入口の説明を省かない
初参加の人には、慣れた人同士だけで通じる約束も言葉にする。分からないと伝えやすい空気をつくります。
たとえば、体育館に初めて来た子に「いつもの並びで」と言っても、その「いつも」を知らないのは、その子だけです。「壁側から背の順で並ぶよ」と一言を足せば、その子はもう迷わずに輪に入れます。
2つめ。人を小さくする冗談に流されない
出自や見た目をからかう言葉が出たときは、笑って合わせず、競技に関係のない線引きだと伝える方法を考えます。
たとえば、誰かの背の低さや話し方をいじって、その場が笑いに包まれたとき。一緒に笑えば、からかわれた本人だけが輪の外に置かれます。「その話はやめておこう」と短く挟むだけで、線は引き直せます。
3つめ。結果の前に参加の条件を見る
うまくできない理由を本人の意欲だけで決めず、道具や時間、説明に届いているかも確かめます。
たとえば、居残り練習に来ない子がいたとして、やる気がないと決めてしまう前に、帰りのバスの時間を聞いてみる。理由が本人の外側にあることは、思っているより多いものです。
4つめ。受け取った機会を次へ渡す
自分が助けられた工夫を、次に来た人にも渡す。小さな案内役を引き受けることから始められます。
たとえば、自分が新人だったころに先輩がしてくれた道具の借り方の説明を、今度は自分が次の新人にする。受け取ったものを一つ下へ流すだけで、入口は開いたままになります。
おわりに
先人に頭を下げるとき、その人はどうしても、遠い時代の英雄のように見えます。けれど、いま自分が当たり前のように立っているこの場所も、初めから開かれていたわけではありません。誰かが押しひらいた入口の先に、私たちは立っています。だとすれば、感謝の返し方は一つではないのだと思います。過ぎた時代を仰ぐだけでなく、次に来る人が入りやすいように、入口を少し広げておく。ロビンソンから受け取れるものがあるとすれば、たぶんそこです。敬意は、今日のグラウンドでの振る舞いとしても残せます。
次回は、もっとも身近な人へ向ける愛について考えます。

あわせてどうぞ:受け取った知恵を次へ渡すことを書いた空海「物の興廃は必ず人に由る」。コートの上で同じ壁に向き合った指導者の話はレッド・アワーバック「一度勝つ」と「勝ち続ける」は、まるで違う。翌日の記事はマザー・テレサ「愛は家庭から」――手を合わせたあと、身近な人の顔を見る。
この人物を、もっと知りたい方へ
『アメリカを変えた黒人アスリート偉人伝 ジャッキー・ロビンソンと6人のヒーローたちの物語』(カンゼン・三谷悠) ロビンソンを第1章に置き、ボクシング・NBA・NFL・陸上・テニスへと、差別のなかで競技を続けた人たちをたどる一冊。日本語で読めるまとまった入口です。
『ジャッキー・ロビンソン 人種差別をのりこえたメジャーリーガー』(汐文社・近藤隆夫) 子どもと一緒に読める伝記。何をした人かを追うだけでなく、どんな扱いを受けながら続けたのかが、やさしい言葉で書かれています。
『ジャッキー・ロビンソン物語』(ちくま文庫・リチャード・スコット 編) 本人の歩みを、当時の記録に沿ってたどる一冊。文庫なので手に取りやすい版です。
人物プロフィール
ジャッキー・ロビンソン(1919–1972)
野球選手・公民権運動の担い手。近代メジャーリーグの人種の壁を破り、競技の外でも平等な機会を求めた。ひとことで:次の人の入口をひらいた選手。
ロビンソンが暮らした場所
メジャーリーグでの最初の時期に、ロビンソンが家族と暮らした地域。











