※本記事にはプロモーション(アフィリエイト広告)を含みます。
思い返してみてください。
学生時代の先生でも、部活の顧問でも、最初の上司でも――誰かに「あなたならできる」と信じてもらえたとき、自分でも驚くほど力が出た経験は、ありませんか。
逆に、あら探しばかりされ、けなされ続けたときは、どうだったでしょう。やる気は縮み、本来の力すら出せなかったはずです。
不思議なもので、人は「信じてもらえた相手」のために、いちばん伸びます。
この単純な、けれど見過ごされがちな真実を、誰よりも深く理解し、経営に生かした日本人がいました。「経営の神様」と呼ばれた、松下幸之助です。
貧しく、病弱で、学もなかった少年
松下幸之助は、決して恵まれた出発点に立っていたわけではありませんでした。
生家は、父が米相場に手を出して失敗し、没落します。彼は小学校を4年で中退し、わずか9歳で家を離れ、丁稚奉公(でっちぼうこう)――住み込みの下働きに出されました。
学歴も、後ろ盾も、丈夫な体さえなかった。彼は生涯を通じて病弱で、しばしば床に伏せるほどだったといいます。
普通なら、ハンデだらけの人生です。
ところが彼は、その一つ一つを、強みに変えていきました。
「弱さ」が、彼の経営を作った
体が弱かったから、彼は何もかも自分でやろうとはしませんでした。人に任せ、人に頼るしかなかった。
学がなかったから、彼は「知ったかぶり」をしませんでした。分からないことは、素直に「教えてください」と頭を下げた。
この二つが、のちに彼の経営哲学の柱になります。
彼は自分の会社が何をする会社かと問われて、こう答えたと伝えられています。
「松下電器は、人をつくる会社です。あわせて、電気製品もつくっています」
家電メーカーの創業者が、「うちは、人を育てる会社だ」と言い切った。事業は人なり――どんなに優れた製品も、それを生むのは人。だから人を育てることこそ、すべての土台だ、と。
そしてもう一つが「衆知を集める」経営でした。自分一人の頭で決めず、周りの知恵を借りる。「私はよく人に尋ねる。知らないことは知らないと言う。すると、みんなが知恵を貸してくれる」。自分の限界を認める謙虚さが、何百、何千という人の知恵を引き出したのです。
(この「衆知を集める」謙虚さは、2400年前に"問いかけ"で人を動かしたソクラテスの姿とも重なります。よければ「論破」より、たった一つの問い――ソクラテスに学ぶ、人を動かす対話の力もどうぞ。)
短所ではなく、長所を見た人
松下は、人を育てる名人でもありました。その秘訣は、たった一つ。
短所ではなく、長所を見ること。
「人には、それぞれに与えられた天分がある。それを見つけ、伸ばしてやることが、人を育てるということだ」
有名な逸話があります。ある社員が大きな失敗をして、青い顔で謝りに来たとき、松下は責めるどころか、こう言ったといいます。
「よく報告してくれた。ところで、その失敗から、何を学んだかね?」
失敗を責めれば、人は挑戦しなくなる。失敗から学ばせれば、人は伸び続ける。彼はそれを知っていました。
その根っこにあったのは、人間への深い信頼です。
「人間は、ダイヤモンドの原石のようなものである。磨けば、必ず光る」
どんな人にも、光る可能性がある。それを信じ、磨く手伝いをする。無学で病弱だった少年が世界的企業を築けたのは、この「人を信じる力」があったからでした。
今を生きる私たちへ
松下の哲学は、経営者だけのものではありません。人と関わって生きる、すべての人に当てはまります。
たとえば、こんな場面です。
つい、相手の欠点ばかりが目についてしまう。 でも松下なら、まず長所を探したはずです。欠点を責められた人は縮み、長所を認められた人は伸びる。これは家庭でも、職場でも、友人関係でも変わりません。
誰かが失敗したとき、思わず責めたくなる。 けれど「何を学んだ?」と問うだけで、失敗は罰ではなく成長の糧に変わる。責める言葉は人を萎縮させ、問う言葉は人を前に進めます。
自分一人で抱え込み、決めようとしてしまう。 松下は「知らない」と言える人でした。素直に人を頼り、知恵を借りる。その謙虚さが、一人では届かない答えを連れてきます。
そして何より――人を信じること。期待をかけられた人が、その期待に応えて伸びていくことは、心理学の「ピグマリオン効果」としても知られています。信じる心は、人を動かす最大の力なのです。
この「長所を見る・失敗から学ばせる・人を信じる」は、誰かを育てる立場の人だけでなく、自分自身への向き合い方としても効きます。自分の短所ばかり数える人より、自分の中の原石を信じて磨ける人のほうが、遠くまで行けるのです。
おわりに
人を活かす者が、最も大きなものを成し遂げる。
松下幸之助の生涯は、それを証明しています。学歴も、体力も、後ろ盾もなかった一人の少年が、世界的企業を築けたのは、誰よりも「人を信じ、人を育てた」からでした。
あなたの周りにも、まだ光っていないだけの原石が、きっといます。
そして――いちばん近くにある原石は、あなた自身かもしれません。
その可能性を信じて磨くことから、すべては始まるのだと思います。
(「事業は人なり」に通じる思想は、「日本資本主義の父」渋沢栄一にも流れています。土地の値段が上がると、私たちは幸せになるのか――渋沢栄一が問い続けたこともどうぞ。)
(「短所ではなく長所を見る」姿勢は、幕末の教育者・吉田松陰にも流れています。たった2年半で、日本を変えた教師がいた――吉田松陰「至誠」の教えもどうぞ。)
「長所を見て伸ばす」人の活かし方は、同時代のもう一人の名経営者にも通じます。本田宗一郎「成功とは、99%の失敗に支えられた1%」では、失敗を恐れず、人に大胆に任せた本田の生き方を紹介しています。
この生き方を、もっと知りたい方へ
松下幸之助は、その哲学を数多くの言葉として遺しています。
なかでも『道をひらく』は、仕事や生き方に迷ったときにそっと背中を押してくれる、時代を超えて読み継がれる一冊です。彼がどんなどん底からこの境地にたどり着いたかを知った今なら、短い一編一編が、より深く心に届くはずです。
