和育道〜wa-iku〜
和の章

岡倉おかくら天心てんしん『茶の本』――いつもの1杯で、暮らしの見え方を変える

Kakuzo Okakura (Tenshin) — Japanese art thinker and cultural advocate (1863–1913) Read in English ↓

10月1日は国際コーヒーの日。いつもの飲み物を入口に、岡倉天心が『茶の本』で語った、暮らしの中の美へ目を向けます。

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座敷の机に向かう天心(イメージ)
座敷の机に向かう天心(イメージ)

10月1日は国際コーヒーの日。いつもの飲み物を入口に、岡倉天心が『茶の本』で語った、暮らしの中の美へ目を向けます。

中身だけでなく、その時間も味わう

コーヒーでもお茶でも、飲み物のそばには小さな時間があります。器を選び、湯を用意し、ひと息つく。同じ飲み物でも、立ったまま流し込むときと、落ち着いて口にするときでは、受け取るものが違います。

10月1日の国際コーヒーの日を、そんな時間を見直す入口にしてみます。国際コーヒー機関・International Coffee Day ここで読むのはコーヒーの歴史ではなく、岡倉天心の『茶の本』です。飲み物の違いを越えて、自分の日常へ引き寄せて読むための接点です。

正解を1つにしない、美の考え方

天心は日本の美術を守り、育てる仕事に携わり、海外にもその価値を伝えました。1906年に英語で刊行した『茶の本』は、茶を飲む文化から、美術や生き方を語りかける本です。茨城県天心記念五浦美術館・岡倉天心

第2章には、次の表現があります。

“There is no single recipe for making the perfect tea”

「完璧なお茶をいれる、ただ1つの決まった方法はない。」

――『茶の本』第2章、一文の前半を抜粋。日本語はWA-IKU訳。岡倉天心・The Book of Tea原文(Project Gutenberg)

続く文章では、茶葉にはそれぞれの個性があり、水や熱との関わり方も異なると語られます。ひとつの方法をどこにでも当てはめるのではなく、目の前のものに応じる。その眼差しは、お茶の技術を越え、日常に美を見つける姿勢へつながっています。

着替えるように、ものの見方も整える

衣替えの時期には、しまっていた器や布が目に入ることがあります。新しいものを買わなくても、使い方を変えるだけで、部屋の印象が変わる。いつもの器を別の場所に置く。机の上を少し空ける。そんな小さな手入れでも、受け取る感覚は違ってきます。

茶碗、湯を扱う道具、器を拭く布。道具だけ並べても、その時間の心地よさが自動的に生まれるわけではありません。誰と過ごすのか、どんな気分なのか、その日の自分や相手に注意を向けることが必要です。

天心の言葉から今の暮らしへ持ち帰りたいのは、美しさに合格するための規則ではなく、目の前のものをよく見る余裕です。いつもと同じだから分かっている、と決めないこと。切り替えるとは、大きく変身することばかりでなく、見慣れたものをもう一度受け取り直すことでもあるのでしょう。

今を生きる私たちへ

1つめ。いつもの器を選び直す

高価な物を足す前に、手元の器を見比べる。今日はどれが心地よさそうか、自分の感覚で選ぶ時間を持ちます。

たとえば、朝の一杯をいれる前に、棚から2つ3つ出して並べてみる。値段ではなく、今日の自分の手が持ちたいほうを選ぶ。それだけで、同じ飲み物の味が少し変わります。

2つめ。1杯の間だけ用事を止める

飲み終わるまでの短い時間、次の作業を考え続けず、温かさや香りに注意を向ける。特別な道具はなくても始められます。

たとえば、湯呑みを持ったらスマホを裏返して机に置く。飲み終わるまでの3分だけ、次の用事を考えない。一日のうち、その3分だけでかまいません。

3つめ。正解より相手を見て調整する

誰かと飲むなら、好みや過ごし方を確かめる。自分のこだわりを披露することより、その場が心地よいかを大切にします。

たとえば、人にお茶を出すとき、いれ方のこだわりを説明する前に「熱いのと、ぬるめとどちらがいいですか」と聞いてみる。その一言のほうが、たいてい喜ばれます。

4つめ。残すものにも手をかける

衣替えや片づけで、捨てる物だけを決めず、使い続けたい物を整える。切り替えの中に、受け継ぐ選択も残してみます。

たとえば、衣替えで捨てる服を選んだあとに、残した上着のボタンを一つ留め直してみる。片づけは、手放すことと同じだけ、残すものを整えることでもあります。

おわりに

季節が変わる日に、暮らしのすべてを新しくしなくてもかまいません。

手元の器を見て、ひと息つく時間を少しだけ丁寧にする。天心が『茶の本』で書いたのも、遠い国の特別な作法ではなく、そういう日々の扱い方でした。

よく知っているつもりの毎日にも、受け取り直せるものはまだ残っています。

次回は、通り慣れた土地へ、もう一度自分の足で近づいてみます。

あわせてどうぞ:昨日のスティーブ・ジョブズ――肩書きを手放しても、好きな仕事は残る。翌日の記事は白洲正子――通り慣れた町にも、まだ知らない顔がある。

茶碗と茶の道具、器を拭く布(イメージ)
茶碗と茶の道具、器を拭く布(イメージ)

この人物を、もっと知りたい方へ

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人物プロフィール

岡倉天心(1863–1913)

美術思想家・美術行政家。本名は岡倉覚三。日本美術の保護と発展、海外への発信に尽くし、英語で『茶の本』を著した。ひとことで:暮らしの美を、世界と語り合った人。

ゆかりの地

天心が住まいを構え、美術の活動拠点とした海辺。

岩の上に立つ六角堂。天心が思索の場とした建物で、今のものは2011年の津波で流されたあと建て直された(写真:Wikimedia Commons/小石川人晃/CC BY-SA 4.0)
岩の上に立つ六角堂。天心が思索の場とした建物で、今のものは2011年の津波で流されたあと建て直された(写真:Wikimedia Commons/小石川人晃/CC BY-SA 4.0)
五浦の岩の海岸と松の岬(写真:Wikimedia Commons/Σ64/CC BY 3.0)
五浦の岩の海岸と松の岬(写真:Wikimedia Commons/Σ64/CC BY 3.0)
岬の上から見た五浦の入り江と六角堂(写真:Wikimedia Commons/Miyuki Meinaka/CC BY-SA 3.0)
岬の上から見た五浦の入り江と六角堂(写真:Wikimedia Commons/Miyuki Meinaka/CC BY-SA 3.0)

この土地へ行くなら

茨城・北茨城の五浦茨城県・北茨城市

茨城県の北のはし、太平洋に岩の岬が突き出た五浦(いづら)は、天心が晩年に住まいを構え、横山大観たちと日本画の新しい道を探った土地です。海に突き出た岩の上には、天心が思索の場とした六角堂が立っています。今の六角堂は、2011年の津波で流されたあとに建て直されたものです。

赤の①②③は歩く順、藍色の a・b・c は寄り道の場所。左下の小さな2枚は、日本のなかと県のなかでの位置。(地図:地理院タイル/国土地理院)

↑ 押すと大きく開きます

歩く順

  1. 1大津港駅大津港駅JR常磐線の駅。五浦の海岸へは、ここから東へ向かう写真:Wikimedia Commons/くろふね/CC BY 4.0
  2. タクシーで5分ほど(歩くと30分ほど)
  3. 2茨城県天心記念五浦美術館茨城県天心記念五浦美術館天心と、五浦で一緒に絵を描いた横山大観たちの作品を紹介する県立の美術館。写真は、海辺の崖の上に立つ美術館を空から見たところ写真:国土地理院(地理院タイル・空中写真)
  4. 海沿いに歩いて10〜15分ほど
  5. 3茨城大学五浦美術文化研究所(天心旧宅・六角堂)茨城大学五浦美術文化研究所(天心旧宅・六角堂)天心が暮らした家と、海に突き出た岩の上の六角堂。いまの六角堂は、2011年の津波で流されたあと建て直されたもの写真:Wikimedia Commons/小石川人晃/CC BY-SA 4.0
Googleマップで経路を開く >

寄り道するなら

時間があれば

この土地の一皿

美術館と研究所(六角堂)は、開いている日や時間が決まっています。行く前に公式サイトでご確認ください。

開館時間や料金は変わることがあります。おでかけ前に公式サイトでご確認ください。

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拡大した地図a
  • 1大津港駅
  • 2茨城県天心記念五浦美術館
  • 3茨城大学五浦美術文化研究所(天心旧宅・六角堂)
  • a五浦岬公園

ENGLISH SUMMARY

Kakuzo Okakura (Tenshin) — Japanese art thinker and cultural advocate (1863–1913)

“There is no single recipe for making the perfect tea”

— The Book of Tea (1906), Chapter 2 — excerpt

Tenshin's former home in Izura, Kitaibaraki, Ibaraki, Japan

Notice the cup already in your hands.

Care for the moment and the person.

Beauty can begin in daily attention.

働き盛りの会社員 × バスケコーチ × 地域活動家

~すべては、愛から~

和を敬い × 人を育て × 道を歩む。

和育道~wa-iku~

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