和育道〜wa-iku〜
育の章

試合に出られない子に、親は何と声をかければいいのか

体育館の保護者席から見ていると、出ている子より出ていない子を目で追ってしまう。帰りの車で、何を言えばいいのか。バスケットボールを教える側から書きます。ベンチには仕事があります。ただし、そこに安住してもいけない。相反する二つを、同時に渡したいという話です。

※本記事にはプロモーション(アフィリエイト広告)を含みます。
無人の体育館。ベンチにたたんだタオルと水筒が置かれている(イメージ挿絵:和育道)
無人の体育館。ベンチにたたんだタオルと水筒が置かれている(イメージ挿絵:和育道)

うちの子、今日も出られなかった。

体育館の保護者席から見ていると、つい、出ている子より出ていない子のほうを目で追ってしまう。

帰りの車で、何か言ったほうがいいのか。それとも触れないほうがいいのか。

「頑張れ」は、なんだか違う気がする。「大丈夫だよ」も、嘘っぽく聞こえそうで言えない。

私はバスケットボールを教える側にいるので、コートの内側からこの景色を見てきました。

今日は、その立場から書きます。

試合に出る子が、すべてではない

まず、いちばん伝えたいことから書きます。

試合に出ていない子にも、仕事があります。

ひとつめは、応援です。

声が出ているチームと、出ていないチームでは、コートの中の空気がまったく違います。これは外から見ているより、中にいるほうがはっきり分かります。

ふたつめは、戻ってきた選手へのサポートです。

交代でベンチに帰ってきた子に、タオルを渡す。うちわで風を送る。息が上がっている子の代わりに、次の指示を聞いておく。

みっつめは、準備です。

いつ呼ばれても出られるように、体を温めておく。相手の動きを見ておく。呼ばれた瞬間から貢献できる状態にしておく。

試合に勝つのは、コートに立っている5人だけの力ではありません。

出ていないメンバーも、大切な選手です。これは慰めではなく、勝ち負けの話としてそうなのです。

得点王を、作らなかった名将

この話をするとき、私が思い出す人がいます。

レッド・アワーバック。1950年代から60年代にかけて、8年連続でリーグを制した伝説の監督です。

普通、監督はスター選手に得点を集めたがります。ところが彼は逆のことをしました。

黄金期のあのチームからは、リーグの得点王が一人も出ていません。

彼のチームの中心にいたのは、ビル・ラッセルという選手でした。得点はそれほど多くない。守備とリバウンドで貢献する選手です。

普通なら評価されにくい「点を取らない選手」を、彼はチームの柱に置きました。

華やかな役ではなく、地味だが欠かせない役を担う人間を、心から評価する。

アワーバックがやっていたのは、それでした。

つまり——役割に誇りを持たせるのは、選手ではなく、上に立つ側の仕事だということです。

準備している子は、見れば分かる

もうひとつ、ベンチについて書いておきたいことがあります。

イチローの言葉に、こういうものがあります。

準備というのは、言い訳の材料となりうるものを排除していく作業

ベンチに座っている子を見ていると、二種類に分かれます。

ただ座っている子と、いつ呼ばれてもいいように体を動かしている子です。

相手のディフェンスを見ている子と、ぼんやり見ている子です。

これは、指導している側からは、はっきり見えます。

出番が来たときに、その差がそのまま出ます。

だから「出られないから、やることがない」ということは、実は一度もありません。

ただし——そこに、安住してはいけない

ここまでと、逆のことを書きます。

私が出られない子に伝えたいのは、じつはこちらのほうです。

出るための努力をしなさい。

個々の技術を磨きなさい。

出られないのは、己に原因があります。

その原因を探り、自分自身を見つめ、分析する。チームにとってどうすれば貢献できるのか、自分の強みと弱みを理解して、練習に励む。

厳しく聞こえるかもしれません。でも、これを言わないのは、その子を選手として見ていないのと同じだと思っています。

「ベンチにも役割がある」と「そこで満足するな」は、矛盾しません。

役割があるから、腐らずにいられる。満足しないから、次がある。

この二つを、同時に渡したいのです。

親御さんへ

保護者の方から何か言われたことは、実はほとんどありません。

けれど、もし言われたら、私はこう思うだろうというのは決まっています。

親は、自分の子がいちばんかわいい人です。

それは当たり前のことで、まったく間違っていません。だから、思うところがあって言いに来るのも、分かります。

そのうえで、監督の役割は別のところにあります。

チームを束ね、まとめ上げ、勝つために最善を尽くす。それが監督の仕事だと、私は自負しています。

だから、親が言う言葉と、監督が言う言葉は、違っていいのだと思います。

技術の話や、なぜ出られないのかの分析は、こちら側の仕事です。

親御さんにしか言えないことは、別にあります。

今日の一歩

帰りの車で、こう言ってみてください。

今日のベンチ、よく声が出てたな

出た・出ないの話ではなく、ベンチでの仕事を見ていた、と伝える一言です。

この一言があるかどうかで、その子が明日の練習に向かう足取りが変わります。

見ていた、というのは、親にしか言えない言葉です。

おわりに

今日から持ち帰れることを、三つだけ。

1つめ。ベンチにも仕事がある、と伝えること。

応援、サポート、準備。どれも、勝ち負けに直接つながる仕事です。慰めとしてではなく、事実として伝えてあげてください。

2つめ。準備している子を、見ている人がいるということ。

ベンチでの過ごし方は、指導する側からはっきり見えています。誰も見ていない時間ではありません。

3つめ。役割に、安住させないこと。

出るための努力を続けること。それを言うのは、その子を選手として見ている証拠です。

——あなたのお子さんは今日、ベンチで何をしていたでしょうか。


この考え方を、もっと深く

チームと役割について、もう少し知りたい方へ。二冊、置いておきます。

『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(かんき出版・ダニエル・コイル) 強いチームの空気がどこから生まれるのかを、実例から解き明かした一冊。「安全な場をつくる」が出発点だと書かれています。

▶ 楽天で見る(紙の本)

『イチロー・インタビューズ 完全版』(文春文庫・石田雄太) 「準備とは、言い訳の材料を排除していく作業」が、どんな文脈で語られたのかまで追える一冊。

▶ 楽天で見る(紙の本)

働き盛りの会社員 × バスケコーチ × 地域活動家

~すべては、愛から~

和を敬い × 人を育て × 道を歩む。

和育道~wa-iku~

タグ

バスケットボール部活ベンチレッド・アワーバック悩み解決型
← 記事一覧へ