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うちの子、今日も出られなかった。
体育館の保護者席から見ていると、つい、出ている子より出ていない子のほうを目で追ってしまう。
帰りの車で、何か言ったほうがいいのか。それとも触れないほうがいいのか。
「頑張れ」は、なんだか違う気がする。「大丈夫だよ」も、嘘っぽく聞こえそうで言えない。
私はバスケットボールを教える側にいるので、コートの内側からこの景色を見てきました。
今日は、その立場から書きます。
試合に出る子が、すべてではない
まず、いちばん伝えたいことから書きます。
試合に出ていない子にも、仕事があります。
ひとつめは、応援です。
声が出ているチームと、出ていないチームでは、コートの中の空気がまったく違います。これは外から見ているより、中にいるほうがはっきり分かります。
ふたつめは、戻ってきた選手へのサポートです。
交代でベンチに帰ってきた子に、タオルを渡す。うちわで風を送る。息が上がっている子の代わりに、次の指示を聞いておく。
みっつめは、準備です。
いつ呼ばれても出られるように、体を温めておく。相手の動きを見ておく。呼ばれた瞬間から貢献できる状態にしておく。
試合に勝つのは、コートに立っている5人だけの力ではありません。
出ていないメンバーも、大切な選手です。これは慰めではなく、勝ち負けの話としてそうなのです。
得点王を、作らなかった名将
この話をするとき、私が思い出す人がいます。
レッド・アワーバック。1950年代から60年代にかけて、8年連続でリーグを制した伝説の監督です。
普通、監督はスター選手に得点を集めたがります。ところが彼は逆のことをしました。
黄金期のあのチームからは、リーグの得点王が一人も出ていません。
彼のチームの中心にいたのは、ビル・ラッセルという選手でした。得点はそれほど多くない。守備とリバウンドで貢献する選手です。
普通なら評価されにくい「点を取らない選手」を、彼はチームの柱に置きました。
華やかな役ではなく、地味だが欠かせない役を担う人間を、心から評価する。
アワーバックがやっていたのは、それでした。
つまり——役割に誇りを持たせるのは、選手ではなく、上に立つ側の仕事だということです。
準備している子は、見れば分かる
もうひとつ、ベンチについて書いておきたいことがあります。
イチローの言葉に、こういうものがあります。
準備というのは、言い訳の材料となりうるものを排除していく作業
ベンチに座っている子を見ていると、二種類に分かれます。
ただ座っている子と、いつ呼ばれてもいいように体を動かしている子です。
相手のディフェンスを見ている子と、ぼんやり見ている子です。
これは、指導している側からは、はっきり見えます。
出番が来たときに、その差がそのまま出ます。
だから「出られないから、やることがない」ということは、実は一度もありません。
ただし——そこに、安住してはいけない
ここまでと、逆のことを書きます。
私が出られない子に伝えたいのは、じつはこちらのほうです。
出るための努力をしなさい。
個々の技術を磨きなさい。
出られないのは、己に原因があります。
その原因を探り、自分自身を見つめ、分析する。チームにとってどうすれば貢献できるのか、自分の強みと弱みを理解して、練習に励む。
厳しく聞こえるかもしれません。でも、これを言わないのは、その子を選手として見ていないのと同じだと思っています。
「ベンチにも役割がある」と「そこで満足するな」は、矛盾しません。
役割があるから、腐らずにいられる。満足しないから、次がある。
この二つを、同時に渡したいのです。
親御さんへ
保護者の方から何か言われたことは、実はほとんどありません。
けれど、もし言われたら、私はこう思うだろうというのは決まっています。
親は、自分の子がいちばんかわいい人です。
それは当たり前のことで、まったく間違っていません。だから、思うところがあって言いに来るのも、分かります。
そのうえで、監督の役割は別のところにあります。
チームを束ね、まとめ上げ、勝つために最善を尽くす。それが監督の仕事だと、私は自負しています。
だから、親が言う言葉と、監督が言う言葉は、違っていいのだと思います。
技術の話や、なぜ出られないのかの分析は、こちら側の仕事です。
親御さんにしか言えないことは、別にあります。
今日の一歩
帰りの車で、こう言ってみてください。
今日のベンチ、よく声が出てたな
出た・出ないの話ではなく、ベンチでの仕事を見ていた、と伝える一言です。
この一言があるかどうかで、その子が明日の練習に向かう足取りが変わります。
見ていた、というのは、親にしか言えない言葉です。
おわりに
今日から持ち帰れることを、三つだけ。
1つめ。ベンチにも仕事がある、と伝えること。
応援、サポート、準備。どれも、勝ち負けに直接つながる仕事です。慰めとしてではなく、事実として伝えてあげてください。
2つめ。準備している子を、見ている人がいるということ。
ベンチでの過ごし方は、指導する側からはっきり見えています。誰も見ていない時間ではありません。
3つめ。役割に、安住させないこと。
出るための努力を続けること。それを言うのは、その子を選手として見ている証拠です。
——あなたのお子さんは今日、ベンチで何をしていたでしょうか。
この考え方を、もっと深く
チームと役割について、もう少し知りたい方へ。二冊、置いておきます。
『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(かんき出版・ダニエル・コイル) 強いチームの空気がどこから生まれるのかを、実例から解き明かした一冊。「安全な場をつくる」が出発点だと書かれています。
『イチロー・インタビューズ 完全版』(文春文庫・石田雄太) 「準備とは、言い訳の材料を排除していく作業」が、どんな文脈で語られたのかまで追える一冊。
