和育道〜wa-iku〜
和の章

日野原ひのはら重明しげあき――話を聞く時間も、贈り物になる

Shigeaki Hinohara — Japanese physician and educator (1911–2017) Read in English ↓

誰かの話を聞く時間は、目には見えない贈り物です。日野原重明が子どもたちに伝えた「いのち」の言葉から、世代をつなぐ関わりを考えます。

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椅子にかけた人が、床に座る子どもたちへ話しかけている(イメージ挿絵:和育道)
椅子にかけた人が、床に座る子どもたちへ話しかけている(イメージ挿絵:和育道)

誰かの話を聞く時間は、目には見えない贈り物です。日野原重明が子どもたちに伝えた「いのち」の言葉から、世代をつなぐ関わりを考えます。

言葉を待ってくれる人がいる

地域の集まりで、話の途中に先を急がず、最後まで聞いてくれる人がいる。その人が差し出しているのは、うまい助言だけではないのでしょう。自分の時間を、しばらく相手のために空けているのです。

敬老の日から彼岸へ続く週の終わりに、受け継いだものを振り返ると、品物より先に、誰かと過ごした時間を思い出すことがあります。教えてもらった時間、待ってもらった時間。そこには、数字にしにくい支えが残っています。

いのちを、子どもにも届く言葉にする

日野原重明は、長年の医療の仕事とともに、子どもたちに「いのちの授業」を届けました。授業を迎えた校長の回想には、子どもに語りかけ、一緒にピアノを弾いた姿が記されています。やまぐち総合教育支援センター・いのちの授業

そこで紹介されている言葉の冒頭が、次の一文です。

「いのちとは、その人が使うことのできる時間です。」

――「いのちの授業」を振り返る校長の記録より。やまぐち総合教育支援センター・いのちの授業

原記録ではこのあと、自分のためだけでなく人のためにも時間を使うことへ、話が続いています。難しい説明を重ねず、子どもが自分の今日と結び付けて考えられる言葉です。

差し出せる時間は、人によって違う

この言葉を、忙しく働き続けなければ価値がないという意味には受け取りたくありません。休む時間も、助けてもらう時間も、生きる時間の一部です。誰かのために何かをする余裕がない日もあるでしょう。

だから、地域の支え合いを考えるときも、大きな奉仕だけを数えなくてよいのだと思います。話を5分聞く。初めて来た人に声をかける。引き受けられないことは早めに伝える。小さくても無理のない関わりには、続けられる強さがあります。

時計を見て、予定を書いた手帳を開く。いつもの道具を前にしたとき、終える用事だけでなく、誰と過ごしたいかも予定に入れてみる。日野原の言葉は、時間を細かく管理するためというより、時間の行き先を自分で考えるために置いておきたい言葉です。

年長者を敬うことも、何かを一方的にしてあげることだけではありません。その人が話したいこと、役に立ちたいこと、休みたいときにも耳を傾ける。対等なやり取りの中で、世代の間に道ができます。

今を生きる私たちへ

1つめ。聞く時間を少し確保する

何かをしながらではなく、短くても相手に向き合う時間をつくる。途中で自分の経験に話を戻さず、相手の言葉を待ってみます。

たとえば、相談を持ちかけられたら、スマホを裏返して机に置く。画面を伏せるという小さな動作が、「今はあなたの話を聞きます」という合図になります。

2つめ。できる範囲を先に伝える

手伝うときは、引き受けられる時間や役割を具体的にする。無理を隠した約束より、続けられる約束が関係を支えます。

たとえば、手伝いを頼まれたとき、「やれるだけやります」ではなく「土曜の午前なら出られます」と答える。はっきり伝えるほど、相手も残りの手配をしやすくなります。

3つめ。教わる役にも回る

年齢だけで助ける側と助けられる側を決めない。相手が知っていることを尋ね、受け取ったものを言葉にして返します。

たとえば、若い人に「その操作、どうやるの」と素直に聞いてみる。教える側に回った人は、自分もこの場の一員だという実感を持てます。

4つめ。自分を休ませる予定も守る

人のための時間と、自分を整える時間を両方残す。支え合いの中には、今日は助けてもらうと伝えることも含まれます。

たとえば、人のために空けた日曜のとなりに、何の予定も入れない半日を残しておく。自分が倒れないことも、支え合いのうちに入ります。

おわりに

私たちの毎日にも、聞いてほしい話を抱えた人がいます。仕事帰りに寄った実家で、親が同じ思い出話をくり返す。練習のあと、うまくいかなかった子が、なかなか口を開かない。どちらも、答えを返すより先に、最後まで聞くことが求められている場面です。聞いてもらえた人は、自分がここにいていいと感じられます。時間を差し出すことは、相手の居場所をつくることでもあるのです。

誰かが自分のために使ってくれた時間は、目には見えなくても残ります。今週思い出した感謝を、次の誰かと過ごす小さな時間へつないでみる。大きなことができなくても、その関わりが地域の温かさを少しずつつくっていくのだと思います。

次回は、5人の歩みを振り返り、誰かから受け取ったものを日々へ返す方法を考えます。

あわせてどうぞ:昨日の一休宗純「雨ふらば降れ 風ふかば吹け」――思いどおりにならない日にも、居場所はある。自分の時間を、まわりの人のために使い直した人の話は宮沢賢治「教師をやめて、田んぼに降りた」――見届けられなくても、やるのか。

開いたままの手帳と、数字のない小さな時計。予定に書くのは、用事だけではない(イメージ挿絵:和育道)
開いたままの手帳と、数字のない小さな時計。予定に書くのは、用事だけではない(イメージ挿絵:和育道)

この人物を、もっと知りたい方へ

『明日をつくる十歳のきみへ 一〇三歳のわたしから』(冨山房インターナショナル・日野原重明) 「いのちの授業」でくり返し子どもに語ったことを、本人が103歳で書いた一冊。記事で引いた「いのちとは、その人が使うことのできる時間です」の考え方が、そのまま流れています。

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『十歳のきみへ 九十五歳のわたしから』(冨山房インターナショナル・日野原重明) 上の本の、九年前に書かれた一冊目。十歳の子に向けた手紙の形で、いのちと時間の話をしています。

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『生きかた上手 新訂版』(いきいき出版局・日野原重明) 老いること、休むこと、人と過ごすこと。大人に向けて書かれた、日野原さんの代表作のひとつです。

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人物プロフィール

日野原重明(1911–2017)

医師・教育者。長年医療に携わり、子どもへの「いのちの授業」や高齢者の社会参加を通して、生きることを問い続けた。ひとことで:いのちを、日々の時間へ結び直した人。

日野原が育った場所

日野原が少年時代を過ごし、教会の仲間と音楽に親しんだ街。

神戸栄光教会(神戸市中央区)。日野原の父が牧師を務め、少年の日野原が通った教会。いまの建物は阪神・淡路大震災で倒壊したあとに建て直されたもの(写真:Wikimedia Commons/663highland/CC BY 2.5)
神戸栄光教会(神戸市中央区)。日野原の父が牧師を務め、少年の日野原が通った教会。いまの建物は阪神・淡路大震災で倒壊したあとに建て直されたもの(写真:Wikimedia Commons/663highland/CC BY 2.5)
同じ教会を、街路の側から。オフィスビルにはさまれた通りに建つ(写真:Wikimedia Commons/663highland/CC BY 2.5)
同じ教会を、街路の側から。オフィスビルにはさまれた通りに建つ(写真:Wikimedia Commons/663highland/CC BY 2.5)
日野原が少年時代を過ごした兵庫県(赤色)。日本海と瀬戸内海の両方に面する(地図:Wikimedia Commons/Lincun/CC BY-SA 3.0)
日野原が少年時代を過ごした兵庫県(赤色)。日本海と瀬戸内海の両方に面する(地図:Wikimedia Commons/Lincun/CC BY-SA 3.0)
兵庫県のなかの神戸市(赤色)。六甲の山と港にはさまれた街(地図:Wikimedia Commons/Lincun/CC BY-SA 3.0)
兵庫県のなかの神戸市(赤色)。六甲の山と港にはさまれた街(地図:Wikimedia Commons/Lincun/CC BY-SA 3.0)

この土地へ行くなら

兵庫・神戸兵庫県・神戸市中央区

六甲の山と港にはさまれた、細長い町です。日野原はこの街で少年時代を過ごし、父が牧師を務めた神戸栄光教会に通いました。その教会は1995年の震災で倒壊し、今の建物は建て直されたものです。壊れてももう一度立てるということを、この街は実際にやってきました。

赤の①②③は歩く順、藍色の a・b・c は寄り道の場所。右の小さな2枚は、日本のなかと県のなかでの位置。(地図:地理院タイル/国土地理院)

↑ 押すと大きく開きます

歩く順

  1. 1三ノ宮駅三ノ宮駅JR・阪急・阪神・地下鉄が集まる、神戸の玄関口。ここから歩いて写真:Wikimedia Commons/othree/CC BY 2.0
  2. 西へ歩いて15分ほど
  3. 2神戸栄光教会神戸栄光教会日野原の父が牧師を務めた教会。1995年の震災で倒壊し、今の建物は建て直されたもの写真:Wikimedia Commons/663highland/CC BY 2.5
  4. 南へ、港のほうへ歩いて15〜20分ほど
  5. 3神戸港震災メモリアルパーク神戸港震災メモリアルパーク震災で壊れたメリケン波止場の一部を、そのままの姿で残した場所。傾いた街灯や崩れた岸壁が見られる写真:Wikimedia Commons/KENPEI/CC BY-SA 3.0
Googleマップで経路を開く >

寄り道するなら

時間があれば

この土地の一皿

教会は祈りの場です。中を見学できるかどうかは、公式サイトでご確認ください。

開館時間や料金は変わることがあります。おでかけ前に公式サイトでご確認ください。

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拡大した地図abc
  • 1三ノ宮駅
  • 2神戸栄光教会
  • 3神戸港震災メモリアルパーク
  • a生田神社
  • b風見鶏の館(北野異人館街)
  • c旧居留地十五番館

ENGLISH SUMMARY

Shigeaki Hinohara — Japanese physician and educator (1911–2017)

“Life is the time that a person has available to use.”

— From a principal's account of Hinohara's "Lesson on Life" for schoolchildren / English translation by WA-IKU

Kobe Eiko Church, Kobe, Hyogo, Japan

He told children that life is simply the time each of us can use.

He went on to say that the time can be spent for others, not only for oneself.

Listening, and waiting without hurrying, is one way that time becomes a gift.

働き盛りの会社員 × バスケコーチ × 地域活動家

~すべては、愛から~

和を敬い × 人を育て × 道を歩む。

和育道~wa-iku~

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